
相続税・遺産税がない国・地域は、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、香港、マレーシア、UAE(ドバイ)、スウェーデン、ノルウェーなど、本記事で確認したものだけで25あります(カナダのように、相続税はなくても死亡時に所得税がかかる国もあります)。ただし、相続税がない国に移住しただけでは、日本の相続税は減りません。親も子も日本国籍の場合、海外の財産に日本の相続税がかからなくなるのは、亡くなった人(被相続人)と財産を受け取る人(相続人)の両方が、亡くなる前の10年間、日本に住所を持っていないときだけです。この判定は相続人一人ずつ行います。さらに、日本にある不動産・国内の銀行の預金・日本の会社の株式には、何年海外に住んでいても日本の相続税がかかります。本記事では、国税庁・e-Gov法令検索・各国の税務当局・PwCの各国税制資料などの公表情報にもとづき、次の点を整理します。
- 相続税・遺産税がない主な国と、代わりにかかる税(みなし譲渡・印紙税など)
- 相続税・遺産税がある主な国(米国・英国・タイ・フィリピン・欧州・韓国・台湾)
- 国外財産が日本の相続税から外れる「被相続人と相続人がともに10年」の条件と、家族の住み方別のケース
- 外国籍を取った場合、出国税、日本の財産、二重課税の落とし穴
※本記事は2026年10月15日時点の公表情報(国税庁、e-Gov法令検索、米国内国歳入庁(IRS)、英国政府、各国の税務当局、PwC Worldwide Tax Summaries など)をもとにした一般的な解説です。各国の税制は改正されることがあり、相続税の納税義務や税額は個々の事情によって変わります。申告・納税の判断は、税務署または税理士へご確認ください。円換算は三菱UFJリサーチ&コンサルティングの2026年10月15日の仲値(1米ドル=157.99円、1英ポンド=209.08円、1ユーロ=176.87円、1タイ・バーツ=4.72円、1フィリピン・ペソ=2.53円)によります。
目次
結論:相続税がない国に住むだけでは、日本の相続税は減らない
日本の相続税は、移住先の国に相続税があるかどうかとは関係なく、日本の相続税法(1条の3・2条)で「誰が納税義務者になるか」「どの財産に課税するか」が決まります。日本国籍の人が海外に移住した場合の結論は、次の3点です。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 国外の財産 | 被相続人と相続人の両方が、相続の前10年以内に日本に住所を持っていないときだけ、日本の相続税がかからない。どちらか一方でも10年以内に日本に住所があれば、海外の財産にもかかる |
| 日本にある財産 | 日本の不動産・国内の銀行の預金・日本の会社の株式(自社株を含む)などは、何年海外に住んでいても日本の相続税がかかる |
| 判定は相続人ごと | 相続人が複数いる場合は一人ずつ判定する。日本に住む子や、出国から10年以内の日本国籍の子が受け取る財産には国内・国外とも日本の相続税がかかり、10年を超えて海外に住む子が受け取る国外財産にはかからない。配偶者が相続する場合も同じように判定する |
ここでいう「日本に住所がある」とは、住民票があることではなく、生活の本拠が日本にあることをいいます。滞在日数だけでなく、家族の住まい、仕事の拠点、資産の所在などをあわせて判断されます。国税庁は、留学や海外出張などで一時的に日本を離れている人は、日本に住所があるものとして扱うと説明しています。住所の判定が争われた武富士事件(最高裁 平成23年2月18日判決)では、贈与の時点で香港に生活の本拠があったとして日本の贈与税の課税が取り消されました。この事件の後に10年のルールが設けられ、現在は住所を海外に移すだけでは足りません。
つまり、相続税がない国への移住で日本の相続税の対象を小さくできるのは、家族がそろって海外に移り、10年を超えて住み続け、資産の多くを海外に置いている場合に限られます。移住先が米国・英国のように相続税・遺産税を課す国であれば、日本の相続税が外れても移住先で相続税がかかります。出国の前後に必要な住民票・所得税・住民税の手続きは、海外移住の税金と住民票の手続きで整理しています。所得税・法人税も含めた国ごとの比較は税金が安い国ランキングをご覧ください。
相続税・遺産税がない(かからない)主な国の一覧
遺産税は亡くなった人の遺産全体に課す税(米国・英国など)、相続税は相続人が受け取った財産に課す税(日本など)です。次の国・地域には、そのどちらもありません。表の右端は、PwC Worldwide Tax Summaries の各国ページが最後に見直された月です(本記事での確認日は2026年10月15日)。ニュージーランド・キプロス・エストニアは、PwCの一覧表と各国当局などの資料で確認しています。
| 国・地域 | 相続税・遺産税 | 注意点 | 資料の最終更新 |
|---|---|---|---|
| オーストラリア | なし(贈与税もなし) | 相続した資産を後で売るときのキャピタルゲイン課税と、年金(スーパーアニュエーション)の死亡給付に特別なルール | 2026年10月 |
| カナダ | なし(連邦・州とも) | 死亡時のみなし譲渡で所得税(次章) | 2026年6月 |
| ニュージーランド | なし(遺産税は1992年に廃止) | 贈与税も2011年10月1日以後の贈与から廃止 | 2026年7月 |
| シンガポール | なし(2008年2月15日以後の死亡から遺産税を廃止) | — | 2026年7月 |
| 香港 | なし(2006年2月11日に遺産税を廃止) | 贈与税もなし | 2026年7月 |
| マレーシア | なし | 贈与税もなし | 2026年6月 |
| UAE(ドバイなど) | なし(個人に対する相続税・贈与税なし) | 遺産の分け方のルールに注意(次章) | 2026年9月 |
| ポルトガル | 相続税なし | 相続人に印紙税(次章) | 2026年10月 |
| マルタ | 相続税なし | 相続人に印紙税(次章) | 2026年9月 |
| キプロス | なし(2000年1月1日に廃止) | — | 2026年8月 |
| スウェーデン | なし(2005年1月1日に廃止。2004年12月17日以後の相続・贈与にもさかのぼって適用) | 贈与税もなし | 2026年8月 |
| ノルウェー | なし(2014年1月1日に廃止) | 贈与税も同時に廃止 | 2026年9月 |
| オーストリア | なし | 不動産取得税と贈与の届出(次章) | 2026年7月 |
| エストニア | なし | 贈与税もなし | 2026年5月 |
| パナマ | なし | — | 2026年8月 |
| メキシコ | 独立した相続税・贈与税はなし | メキシコ居住者が受け取る相続は所得税が非課税。配偶者・直系の親族からの贈与も非課税 | 2026年8月 |
| インドネシア | なし | 土地・建物の取得税(次章) | 2026年6月 |
| 中国 | なし | — | 2026年7月 |
| マカオ | なし | 贈与税もなし | 2026年6月 |
| ブルネイ | なし | 贈与税もなし | 2026年8月 |
| イスラエル | なし | 贈与税もなし | 2026年6月 |
| サウジアラビア | なし | 贈与税もなし。遺産の分け方はイスラム法による | 2026年7月 |
| カタール | なし | 贈与税もなし。遺産の分け方はイスラム法による | 2026年9月 |
| スロバキア | なし | 贈与税もなし | 2026年9月 |
| リヒテンシュタイン | なし | 贈与税もなし | 2026年6月 |
このほか、ドミニカ国の市民権プログラムの公式サイトには「相続税・贈与税がない」、バヌアツの政府系投資誘致機関のサイトには「死亡時の税(death duties)がない」と記載されています。いずれも制度の案内ページの記載で、税務当局の資料では確認できていません。ナウルは、ナウル歳入局が公表している税目(雇用・サービス税、事業税など)に相続税・贈与税がありません。モナコは配偶者・直系の親族には相続税がかかりませんが、それ以外の親族などには相続税がかかるため、この表には入れていません。移住先の候補を国ごとに比べたい場合は、海外移住おすすめの国もあわせてご覧ください。
「相続税なし」でも別の税がかかる国
「相続税がない」とされる国でも、相続のときに所得税・印紙税・不動産の取得税など、別の名前の税がかかる国があります。
| 国 | かかる税 | 内容 |
|---|---|---|
| カナダ | 所得税(死亡時のみなし譲渡) | 亡くなった時点で資産を売ったものとみなし、含み益(値上がり益)に所得税がかかる。株式や投資用不動産を多く持つ人は、相続税に近い負担になる。多くの州でプロベート(遺言の有効性を確かめ、遺産を処理する裁判所の手続き)の手数料もかかる |
| ポルトガル | 印紙税 | 相続・贈与による財産の取得に10%。配偶者・事実婚のパートナー・子や孫・父母や祖父母は非課税。ただし不動産の贈与には0.8%がかかる |
| マルタ | 印紙税 | 相続人に、不動産5%、マルタ法人の株式2%。配偶者・同居人や子・孫(直系の子孫)が住宅を相続する場合は条件付きで非課税 |
| オーストリア | 不動産取得税・贈与の届出 | 不動産を無償で取得すると不動産取得税(0.5%・2%・3.5%の段階税率)。親族からの年5万ユーロ(約884万円)超などの贈与は届出が必要 |
| インドネシア | 土地・建物の取得税 | 相続で土地・建物を取得すると最大5%(相続の非課税枠は地域により異なる) |
| ベトナム | 個人所得税 | 相続税はないが、不動産・証券などの相続は2,000万ドンを超える部分に10%の個人所得税(2026年7月1日施行の新しい個人所得税法。夫婦・親子などの間の不動産の相続は非課税) |
| インド | 所得税(贈与の受け取り) | 相続税はない。親族以外から一定額を超える贈与を受けると、受け取った人の所得として課税。親族からの贈与と相続は非課税 |
| ラトビア | 個人所得税 | 相続税はないが、個人からの贈与は所得税の対象(配偶者・3親等以内の親族からは非課税) |
UAE:税はないが、遺産の分け方のルールに注意
UAEには相続税がありませんが、遺産をどう分けるかのルールに注意が必要です。ムスリムの相続はイスラム法(シャリア)にもとづいて扱われます。非ムスリムの外国人には、2023年に施行された2022年の連邦法令第41号が原則として適用され、遺言がない場合は男女の区別なく分配されます。遺言を残す場合は、DIFC(ドバイ国際金融センター)の遺言登録制度(UAE居住者でなくても利用可)やADGM(アブダビ・グローバル・マーケット)の裁判所で登録する方法があります。ドバイの税制の全体はドバイ(UAE)に税金はない?で解説しています。
相続税・遺産税がある主な国
移住先の候補になりやすい国のうち、相続税・遺産税がある国は次のとおりです。米国は米国にドミサイル(生活の本拠と永住の意思)を持った時点から、英国は過去20課税年度のうち10年英国に住んだ時点から、国外の財産にも課税します。このため、日本と移住先の両方で相続税がかかる場合があります。
| 国 | 最高税率 | 非課税枠・ポイント |
|---|---|---|
| 米国 | 40%(遺産税・贈与税) | 2026年に亡くなった米国市民・米国居住者の基礎控除は1,500万ドル(約23.7億円)、以後は物価に連動。年間の贈与の非課税枠は1人あたり1万9,000ドル(約300万円)。米国市民でも米国居住者でもない人は、非課税枠が実質6万ドル(約948万円)しかなく、米国の会社の株式や米国の不動産など米国にある財産が6万ドルを超えると申告が必要 |
| 英国 | 40% | 非課税枠は32万5,000ポンド(約6,795万円)で、2031年4月5日まで据え置き。2025年4月6日から居住を基準にする制度に変わり、過去20課税年度のうち10年英国に住んだ人は国外の財産も対象。出国後も3〜10年は課税が続く |
| タイ | 10% | 2016年2月1日施行。1人の被相続人から受け取る額のうち1億バーツ(約4.72億円)を超える部分に課税。直系の親族は5%、それ以外は10%。配偶者は対象外 |
| フィリピン | 6% | 遺産税・贈与税とも6%。遺産税の基礎控除は市民・居住者が500万ペソ(約1,265万円) |
| スイス | 州により異なる | 連邦の相続税はないが、州ごとに相続税・贈与税がある。かからないのはシュヴィーツ州とオプヴァルデン州だけ。配偶者はすべての州で非課税、子も多くの州で非課税 |
| 韓国 | 50% | 相続税・贈与税とも最高50% |
| 台湾 | 20% | 相続税・贈与税とも最高20% |
| フランス | 60% | 相続税・贈与税とも最高60%(相続人との関係で税率が変わる) |
| ドイツ | 50% | 相続税・贈与税とも最高50% |
| スペイン | 34%(国の税率表) | 国の制度では、相続人がすでに持っている財産と続柄に応じた乗数(最大2.4倍)がかかるため、実際の負担はさらに重くなる。自治州が独自の制度を定めている場合はそれによる |
| イタリア | 8% | 相続人との関係で税率が変わる |
| ギリシャ | 40% | 相続人の区分によって最高税率が10%・20%・40%に分かれる |
| 日本 | 55% | 下の章を参照 |
米国への移住を考えている場合は特に注意が必要です。米国の永住権(グリーンカード)を取って米国に生活の本拠を移すと、米国の遺産税の対象が日本の財産を含む世界中の財産に広がるうえ、日本の相続税も10年の条件を満たすまでは国外財産にかかります。
国外財産が日本の相続税から外れる条件:被相続人と相続人がともに10年
被相続人が日本国籍の場合、国外財産に日本の相続税がかかるかどうかは、被相続人と相続人それぞれの「相続の前10年以内に日本に住所があったか」と、相続人の国籍で決まります。条文(相続税法1条の3)を整理すると、次の表のとおりです。
| 被相続人(亡くなった人) | 相続人(財産を受け取る人) | 国外財産 |
|---|---|---|
| 日本に住所あり | どこに住んでいても、国籍を問わず | かかる |
| 海外在住だが、10年以内に日本に住所あり | どこに住んでいても、国籍を問わず | かかる |
| 10年を超えて日本に住所なし | 日本在住(一時居住者を除く) | かかる |
| 10年を超えて日本に住所なし | 海外在住の日本国籍の人で、10年以内に日本に住所あり | かかる |
| 10年を超えて日本に住所なし | 海外在住の日本国籍の人で、10年を超えて日本に住所なし | かからない(日本にある財産だけ) |
| 10年を超えて日本に住所なし | 海外在住で、日本国籍がない | かからない(日本にある財産だけ) |
ポイントは、10年の条件を被相続人と相続人の両方が満たす必要があることです。たとえば2027年4月に親子そろって出国し、その後一度も日本に住所を持たなかった場合、国外財産が外れるのは2037年4月より後に相続が起きたときです。一時帰国が長くなり、その間に日本に生活の本拠があったと判断されると、そこから10年を数えることになります。
この10年のルールは、2017年4月1日以後の相続から適用されています(それまでは5年)。贈与税も同じ構造(相続税法1条の4)で、贈与する人と受ける人の両方が10年以内に日本に住所を持っていなければ、国外財産の贈与は日本の贈与税の対象から外れます。
家族の住み方別のケース
| ケース | 国外財産への日本の相続税 |
|---|---|
| 親は日本に住み、子は外国籍を取って海外に住んでいる | かかる。親が日本に住所を持っている限り、子の国籍や海外に住んだ年数に関係なく、国内外のすべての財産が対象 |
| 親子で海外に移住したが、子の一人だけ日本に戻った | 日本に戻った子が受け取る財産には、国内外ともかかる。海外に残った子は、親子それぞれ10年を超えていれば国外財産にはかからない |
| 夫婦で先に移住し、子(日本国籍)は後から海外へ | 子の出国から10年たつまでは、その子が受け取る国外財産にかかる |
| 家族全員が海外に移住して10年超 | 国外財産にはかからない。日本にある財産にはかかる |
| 海外に住む子が、日本に住む親の財産を相続 | かかる。国内外のすべての財産が対象で、子は日本で申告する(下の章を参照) |
外国籍を取った場合と、外国人の場合
親が外国籍を取っても、10年を待つ必要がある
日本国籍の人が自分の意思で外国籍を取得すると、日本国籍を失います(国籍法11条。詳しくは二重国籍を認めている国一覧)。では、被相続人(親)が外国籍を取れば、10年を待たずに国外財産が外れるかというと、外れません。
相続税法の「非居住被相続人」は、相続の時に日本に住所がなく、次のどちらかにあたる人をいいます。
- 相続の前10年以内に日本に住所があったが、その期間ずっと日本国籍がなかった人
- 相続の前10年以内に日本に住所がなかった人
日本人として日本に住み、出国後に外国籍を取った人は、日本に住所があった時点で日本国籍を持っていたため、1つめにはあたりません。結局、2つめの「10年以内に日本に住所がない」を満たすまで待つことになり、親の側については、国籍を変えても近道にはなりません。
子が外国籍の場合
海外に住む相続人(子)に日本国籍がない場合は、子の側の10年は問われず、被相続人が非居住被相続人(または外国人被相続人)にあたるかだけで判断されます。日本国籍の親が10年を超えて日本に住所を持っていなければ、外国籍の子が受け取る国外財産は日本の相続税の対象外です。逆に、親が日本に住んでいるか、海外移住から10年たっていなければ、子が外国籍でも国外財産に日本の相続税がかかります。
なお、外国籍と日本国籍の両方を持つ子(二重国籍)は「日本国籍がある」として扱われ、子の側にも10年の条件がかかります。
もともと外国人の人の場合
日本に住んでいた期間ずっと日本国籍がなかった人(外国人)は、日本を出国した時点で非居住被相続人にあたります(2018年4月1日以後の相続から)。また、就労などの在留資格(別表第一)で日本に住む外国人が亡くなった場合は、日本での居住期間にかかわらず外国人被相続人にあたります(2021年4月1日以後)。外国人被相続人・非居住被相続人の財産を相続する場合、次の相続人が受け取る国外財産には日本の相続税がかかりません。①一時居住者として日本に住む人、②日本国籍がなく海外に住む人、③日本国籍があり、10年を超えて日本に住所がない海外在住の人。日本国籍があり、10年以内に日本に住んでいた相続人は、海外に住んでいても国外財産が課税対象です。永住者・日本人の配偶者等・定住者(別表第二の在留資格)の人は、外国人被相続人にあたりません。
海外に住む子が、日本に住む親の財産を相続する場合
親が日本に住んでいれば、海外に住む相続人も国内外の財産が課税対象になり、申告が必要な場合は納税管理人を届け出て申告します。外国籍の相続人や海外在住の相続人は日本の印鑑証明を取れないことが多いため、遺産分割協議書には在外公館や現地の公証人による署名証明・宣誓供述書などを使います。日本の不動産を相続した場合は、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内の相続登記が義務になっています。米国市民・米国居住者が米国外の個人などから年間合計10万ドル(約1,580万円)を超える相続や贈与を受けると、米国の税金はかからなくてもIRSへの報告(Form 3520)が必要です。戸籍謄本の取り寄せや書類の認証は、海外からでも手続きできます(海外からの戸籍謄本の取り寄せ)。
日本の相続税の計算と、条文上の区分
財産が「日本にあるか」は、財産の種類ごとに決まっています(相続税法10条)。口座の場所ではなく財産の種類で判定します。
| 財産 | 所在の判定 | 例 |
|---|---|---|
| 不動産 | その不動産の所在地 | 日本の自宅・賃貸物件は国内財産 |
| 預金 | 預け入れた銀行の営業所の所在地 | 日本の銀行の海外支店の預金は国外財産、外国の銀行の日本支店の預金は国内財産 |
| 株式 | 発行した会社の本店の所在地 | 日本の会社の株式(上場株・自社株)は、海外の証券口座で持っていても国内財産。外国の会社の株式は、日本の証券口座で持っていても国外財産 |
| 生命保険金 | 保険会社の本店の所在地(外国の保険会社でも、契約を扱う日本の営業所があればその所在地) | 日本の生命保険会社の保険金は国内財産 |
日本の相続税の基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数で、税率は法定相続分に応じた取得金額ごとに10%から55%までの8段階です。
| 法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | — |
| 3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
たとえば、日本に住む親が亡くなり、法定相続人は子1人だけで、その子が預金や投資信託など3億円を相続する場合、基礎控除は3,600万円、課税される遺産の総額は2億6,400万円で、税額は2億6,400万円×45%−2,700万円=9,180万円です(各種の税額控除を引く前)。子が海外に住んでいても、外国籍でも、この計算は変わりません。
条文上の4つの区分
相続税法1条の3は、相続人を次の4つに分けています。
| 区分 | 主な対象 | 課税される財産 |
|---|---|---|
| 居住無制限納税義務者 | 相続のときに日本に住所がある相続人(一時居住者で、被相続人が外国人被相続人・非居住被相続人の場合を除く) | 国内・国外のすべての財産 |
| 非居住無制限納税義務者 | 日本に住所がない相続人のうち、①日本国籍があり、相続の前10年以内に日本に住所があった人、②被相続人が外国人被相続人・非居住被相続人のどちらにもあたらない場合の相続人(日本に住む日本国籍の被相続人や、出国から10年以内の日本国籍の被相続人の場合。相続人の国籍や海外に住んだ年数を問わない) | 国内・国外のすべての財産 |
| 居住制限納税義務者 | 日本に住所がある一時居住者で、被相続人が外国人被相続人・非居住被相続人の場合 | 日本にある財産だけ |
| 非居住制限納税義務者 | 日本に住所がない相続人で、上のどれにもあたらない人 | 日本にある財産だけ |
用語の意味は次のとおりです。一時居住者は、相続のときに就労などの在留資格(入管法の別表第一)で日本に住み、相続の前15年以内に日本に住所があった期間が合計10年以下の人です。外国人被相続人は、相続のときに別表第一の在留資格で日本に住んでいた被相続人です。非居住被相続人は次の章で説明します。
日本にある財産だけが課税される人(制限納税義務者)は、差し引ける債務が日本の財産に関係するものなどに限られ、葬式費用も差し引けません。未成年者控除・障害者控除も使えません。障害者控除は日本に住所がある相続人だけが対象のため、国内外の財産に課税される海外在住の相続人(非居住無制限納税義務者)も使えません。海外に住む相続人が日本の相続税を申告する場合は、日本国内に住む家族や税理士などを納税管理人として届け出る必要があります。
海外移住で相続税を減らそうとするときの落とし穴
会社オーナー・不動産が中心の人は、移住の効果が小さい
10年の条件を満たしても、日本にある財産には日本の相続税がかかります。自社株(日本の会社の株式)は、会社の本店が日本にある限り国内財産で、日本の不動産も同じです。資産の多くが自社株や日本の不動産である場合、移住による相続税の変化は小さくなります。また、海外に移った後も日本で会社の経営を続けていると、日本に生活の本拠があるとされることもあります。自社株の引き継ぎは、移住とは別に、後継者・株価・事業承継税制などの事業承継の問題として税理士と検討します。移住後の日本の銀行口座の扱いは海外移住したら日本の銀行口座はどうなる?で解説しています。
出国税(国外転出時課税)と、その納税猶予
出国のときに、上場株・自社株などの非上場株式・投資信託などの有価証券を合計1億円以上持ち、出国の日前10年以内に日本に住所または居所があった期間が5年を超える人は、出国時に含み益に所得税がかかります(国外転出時課税)。税率は株式の譲渡所得と同じ15.315%(復興特別所得税を含む)で、たとえば含み益が2億円なら約3,063万円です。
1億円以上の有価証券を持つ人が海外に住む人へ贈与した場合も、贈与した人の含み益に所得税がかかります。海外に住む相続人が相続した場合は、亡くなった人の所得税としてかかり、相続人が準確定申告をします。
出国税は、納税管理人の届出と担保の提供などの要件を満たすと、5年間(延長すると最長10年)納税を猶予できます。ただし、納税猶予を受けている人が亡くなったり贈与をしたりすると、実際の出国からの年数にかかわらず、その人は「10年以内に日本に住所があった」とみなされ、国外財産も日本の相続税・贈与税の対象になります(相続税法1条の3第2項、1条の4第2項)。親から納税猶予付きで有価証券の贈与・相続を受けた海外在住の子も、その後の自分の相続・贈与のときに同じように扱われる場合があります(贈与・相続の前10年以内に日本に住所がなかった子を除く)。
移住先の相続税と、二重課税の調整
移住先が米国や英国のように相続税・遺産税がある国の場合、同じ財産に日本と移住先の両方で相続税がかかることがあります。日本では、国外にある財産に外国の相続税がかかったとき、その税額を日本の相続税から差し引く在外財産に対する相続税額の控除(相続税法20条の2)があります。差し引ける額には上限があり、相続人ごとに「その人の相続税額×外国の相続税が課された国外財産の割合」で計算します。割合は、その人が取得した財産(課税価格の計算に含めたもの)のうち、外国の相続税が課された国外財産が占める割合です。日本にある財産(日本の不動産や預金など)に外国でかかった相続税は、この控除では差し引けません。相続税の条約は米国との日米相続税条約(1955年発効)だけで、英国などとの二重課税は各国の国内法で調整します。
米国の株式・不動産を直接持っている場合
米国市民でも米国居住者でもない人でも、米国の会社の株式や米国の不動産など米国にある財産が6万ドルを超えると、米国の遺産税の申告が必要になります(IRS)。米国市民でも米国居住者でもない人の非課税枠は実質6万ドル分しかなく、超えた部分に最高40%の遺産税がかかります。相続税がない国に移住しても、米国株を直接持っていれば米国の遺産税の問題は残ります。日米相続税条約で控除が増える場合があるため、米国の財産が多い人は日米両方の専門家に確認します。
よくある質問
相続税がない国に移住すれば、相続税はゼロになりますか?
なりません。被相続人と相続人がともに日本国籍の場合、両方が10年を超えて日本に住所を持たない状態にならない限り、国外の財産にも日本の相続税がかかります。10年を超えても、日本にある不動産・国内の銀行の預金・日本の会社の株式には日本の相続税がかかります。
10年は、住民票を抜いた日から数えるのですか?
住民票ではなく、生活の本拠が日本にあったかどうかで判断されます。住民票を抜いていても、日本に生活の本拠が残っていれば日本に住所があるとされることがあります。判定するのは「相続の開始前10年以内に日本に住所があったか」です。
親だけが海外に住み、子は日本に住んでいる場合はどうなりますか?
日本国籍で日本に住む子は居住無制限納税義務者として、親が何年海外に住んでいても、受け取る財産のすべて(国内・国外とも)に日本の相続税がかかります。
一時帰国すると、10年は数え直しになりますか?
帰国した日数だけで決まる基準はありません。短期の一時帰国であれば、生活の本拠は海外のままと判断されるのが通常です。ただし、日本で長く暮らし、家族・仕事・住まいの中心が日本に戻ったと判断されると、その期間は日本に住所があったことになり、そこから10年を数えることになります。帰国の日数・目的・滞在先を記録しておくと説明しやすくなります。
海外に住む子への生前贈与なら、日本の贈与税はかかりませんか?
贈与税も相続税と同じ構造です。親子がともに日本国籍の場合、両方が10年以内に日本に住所を持っていなければ、国外の財産の贈与は日本の贈与税の対象外です。どちらかが10年以内に日本に住んでいれば、国外財産の贈与にも日本の贈与税がかかります(子が外国籍で海外に住んでいる場合は、親の10年だけで判断します)。1億円以上の有価証券を持つ人が海外に住む子に有価証券を贈与すると、親に国外転出時課税(含み益への所得税)がかかる場合もあります。
10年たってから日本に戻ったらどうなりますか?
日本の相続税は、相続のときに日本に住所があるかどうかで判定します。被相続人が日本に戻って住所を持った後に亡くなれば、国内外のすべての財産に日本の相続税がかかります。日本国籍の相続人が日本に戻って住所を持った場合も、その相続人が受け取る財産は国内外とも課税対象です。10年の条件は、相続のときまで満たし続けている必要があります。
まとめ:移住先の税制より先に「日本の10年」を確認する
相続税がない国は、オーストラリア・ニュージーランド・シンガポール・香港・マレーシア・UAEなど数多くあります。ただし、日本の相続税が国外財産にかからなくなるのは、ともに日本国籍の場合、被相続人と相続人の両方が10年を超えて日本に住所を持たないときに限られ、判定は相続人ごとに行います。日本にある財産にはその後もかかり、出国税の納税猶予を受けている人が亡くなると、国外財産は外れません。移住先が米国・英国のように相続税がある国なら、移住先でも相続税がかかります。家族のうち誰が、いつ、どの国に住むかを先に決め、そのうえで移住先の税制を比べると判断しやすくなります。
税理士に相談する前に整理しておくこと
- 家族それぞれ(配偶者・子)の住んでいる国、国籍、出国した日(予定日)
- 財産の種類と所在(日本の不動産、自社株、上場株、海外の預金・株式、米国の財産)
- 有価証券の時価と含み益の合計(1億円以上か)
- 遺言の有無と、移住先で遺言を作るかどうか
- 移住先の候補の国の相続税・遺産税と、所得税・キャピタルゲイン課税
当事務所は海外移住・永住権・市民権取得のご相談を承っています。移住先の候補の比較と、ビザ・永住権・市民権の取り方の整理についてご相談いただけます(相続税の申告や税額の判断は税理士の領域のため行っていません)。マルタ・パナマ・バヌアツ・ドミニカ国・ナウルなどの永住権・市民権の申請をサポートしています。移住先のビザ申請や相続の手続きで求められる戸籍謄本などの英訳、アポスティーユ・公証などの認証手続き、海外からの戸籍謄本の取り寄せも当事務所で対応しています。
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参考(一次情報・出典)
- e-Gov法令検索:相続税法(1条の3、1条の4、10条、20条の2)
- 国税庁:No.4138 相続人が外国に居住しているとき
- 国税庁:No.4432 受贈者が外国に居住しているとき
- 国税庁:No.4152 相続税の計算
- 国税庁:No.4155 相続税の税率
- 国税庁:国外転出時課税制度
- 国税庁:No.1478 国外転出をする場合の譲渡所得等の特例
- 税務大学校:税大ジャーナル(日米相続税条約)
- KPMG:平成30年度改正(非居住被相続人の定義)
- KPMG:令和3年度改正(外国人被相続人)
- PwC Worldwide Tax Summaries:Inheritance and gift tax rates
- IRS:What's new — Estate and gift tax
- IRS:Some nonresidents with U.S. assets must file estate tax returns
- 英国政府:Inheritance Tax if you're a long-term UK resident
- ニュージーランド内国歳入庁:Gift duty abolition
- 香港税務局:Estate Duty
- ポルトガル税務当局:印紙税の拘束的情報
- オーストリア経済会議所:贈与の届出(Schenkungsmeldegesetz)
- PwC Worldwide Tax Summaries:Vietnam(相続の個人所得税)
- PwC Worldwide Tax Summaries:Spain(相続贈与税)
- PwC Worldwide Tax Summaries:Thailand(相続税)
- PwC Worldwide Tax Summaries:各国の Other taxes(相続税・贈与税の有無、資料の最終見直し月)
- エストニア税関税務庁:Estate
- PwC キプロス(Mondaq):Inheritance tax
- スウェーデン政府:相続税・贈与税の廃止に関する法案(2004/05:97)
- IRS:Instructions for Form 3520
- 法務省:相続登記の申請義務化について
- PwC フィリピン:遺産税の改正(2018年)
- Withers:UAEの非ムスリムの相続と遺言
- ドミニカ国 市民権投資ユニット:Benefits
- バヌアツ投資促進庁:Low tax jurisdiction
本記事の制度は2026年10月15日時点の公表情報(国税庁の「令和8年4月1日現在法令等」を含む)にもとづきます。円換算は三菱UFJリサーチ&コンサルティングの2026年10月15日の仲値(1米ドル=157.99円、1英ポンド=209.08円、1ユーロ=176.87円、1タイ・バーツ=4.72円、1フィリピン・ペソ=2.53円)によります。ベトナム・ドンは同社の公表対象外のため、円換算していません。


