香港で銀行口座を開設する方法【2026年】|必要書類・銀行の選び方・維持コスト

「香港で銀行口座を開きたい」と調べ始めると、最初にぶつかるのが「日本から開けるのか」という問いです。2026年9月時点で、日本在住者が使える公式のリモート開設ルートは確認できませんでした。HSBCのアプリでの海外口座開設は対象となるパスポートが15の国・地域に限られ、そこに日本は入っていません。日本国内のHSBCは個人向けの銀行業務から撤退しており、海外口座の窓口にもなりません。つまり香港の支店へ本人が行くことが前提になります。本記事では、主要5行の公表条件、当日に持っていく書類、そして見落とされがちな開設後の維持コスト——HSBCが2026年1月に新設した手数料と、口座種別により8〜36か月で休眠になる仕組み——を整理します。なお本記事で「非居住者」というときは、香港に居住していない人を指します。また「確認できませんでした」と書いている箇所は、制度や取扱いが存在しないという意味ではなく、公表資料からは読み取れなかったという意味です。該当する銀行に直接ご確認ください。

※本記事は2026年9月18日時点の公表情報(各銀行の公式サイトおよび公式料金表、香港特別行政区政府の公表資料、国税庁・日本銀行・香港司法機構の公表資料、および一部の報道)にもとづく一般的な解説です。銀行の取扱いは予告なく変わり、実際に口座を開設できるかどうかは各行の審査によります。税務の具体的な判断は税理士に、香港法の解釈は現地の専門家にご確認ください。円換算は三菱UFJリサーチ&コンサルティングの2026年9月18日の仲値(1香港ドル=19.92円)によります。

目次

  1. 結論:2026年に日本人が香港で口座を開くとどうなるか
  2. 日本にいながらの開設:公式ルートは確認できない
  3. 銀行の選び方:主要5行を比較する
  4. 2026年1月に変わったこと:HSBCの月100香港ドル
  5. 必要なもの:持っていく書類と当日の流れ
  6. 開設後の維持:休眠までの期間と再開方法
  7. 残高は毎年、日本の国税庁に届く
  8. 相続で起きること
  9. よくある質問
  10. まとめ

結論:2026年に日本人が香港で口座を開くとどうなるか

日本人が香港で個人口座を開く場合の要点(2026年9月18日時点)
論点2026年9月時点の答え
日本にいながら開設できるか公式ルートは確認できなかった。HSBCのアプリ開設の対象パスポートは15の国・地域で、日本は含まれていない
日本のHSBCは使えるか使えない。日本では個人向けの銀行業務を行っておらず、海外のHSBC口座保有者への窓口業務もしないと明記している
香港へ行けば開けるか支店での受付の記載がある銀行は複数ある。ただし銀行に開設を義務づける規定は確認できず、審査で断られることはある
維持費はかからないか銀行による。HSBCは、HSBC Oneを2026年1月1日以降に開設した香港IDなしの人について、3か月連続で平均総取引残高が10,000香港ドル(約19.9万円)を下回ると月100香港ドル(約1,992円)。ハンセン銀行は個人の貯蓄口座について免除と明記し、中国銀行(香港)は現行料金表で法人のみを対象としている。スタンダードチャータードと東亜銀行は上位の口座種別にのみ設定を確認でき、下位の口座種別は記載を確認できなかった
放っておくとどうなるか口座種別により8〜36か月で休眠になる(普通に使う口座はおおむね12〜24か月)。再開の方法は行ごとに違い、オンラインで済む場合と、電話や支店が必要な場合がある
日本の税務署に知られるか毎年届く。香港は2018年から日本とCRSで口座情報を自動交換している
相続はどうなるか香港に遺産税はないが、原則として香港の遺産承辦書(Grant of Representation)が必要。少額の場合のみ簡易手続きがある

このうち、ネット上の情報が古いまま残っているのが「維持費は無料」と「日本の税務署にはわからない」の2点です。HSBCはHSBC Oneを2026年1月1日以降に開設した香港IDなしの人について手数料を新設したため、前者は成り立たなくなり、後者は2018年以降成り立ちません。順に見ていきます。

実際に香港の支店を回って開設したときの記録は、HSBC香港の口座開設をしてきました【体験談】にまとめています。

日本にいながらの開設:公式ルートは確認できない

「香港に行かずに開設できる」と書いている情報を見かけますが、2026年9月時点の各行の公式情報を確認する限り、日本在住者が使える正規のリモート開設ルートは確認できません。理由は2つあります。

理由1:HSBCのリモート開設は、日本のパスポートを対象にしていない

HSBC香港は、香港に来る前でもアプリで口座を開ける仕組みを用意しています。ただし対象となる海外パスポートはオーストラリア、ベルギー、カナダ、インド、アイルランド、イタリア、ジャージー、メキシコ、フィリピン、シンガポール、南アフリカ、台湾、イギリス、アメリカ、ベトナムの15の国・地域で、日本は入っていません。18〜75歳であること、HSBCと未取引であることなども条件になります。

理由2:日本国内のHSBCは、個人向けの窓口ではない

HSBCは日本で、資産運用・法人向け銀行業務・貿易金融・証券カストディなどを行っていますが、個人向けリテール業務は行っていません。公式サイトには、日本国内では海外のHSBC個人口座の保有者に対してATMを含むリテールサービスを提供しない旨が明記され、口座のある支店へ直接連絡するよう案内されています。

また、HSBCが各国の既存顧客向けに提供している海外口座開設サービスの対象拠点にも、日本は含まれていません。「日本のHSBCに相談すれば香港の口座を作ってもらえる」という前提は、2026年時点では成り立ちません。

つまり日本にいながら開ける公式ルートは確認できず、香港への渡航費と滞在費が実質的な初期コストになります。後述するように、開設後の維持にも手間がかかる点を含めてご検討ください。

銀行の選び方:主要5行を比較する

香港の伝統的なリテール銀行のうち、日本人がよく候補にする5行を、非居住者の受付に関する公式の記載・口座維持手数料・非居住者向け書類リストの公表状況の3点で比較します。オンライン完結型のバーチャルバンクは、非居住者の扱いが銀行ごとに大きく異なるため本記事では扱いません。

香港の主要5行の比較(2026年9月18日時点・個人口座)
銀行非居住者の受付に関する公式記載口座維持手数料(残高が下限を下回った場合)非居住者向け書類リストの公表
HSBC(滙豐銀行)支店での受付の記載ありHSBC Oneは、2026年1月1日以降に開設した香港IDなしの人が3か月連続で平均総取引残高10,000香港ドル(約19.9万円)未満だと月100香港ドル(約1,992円)。Premierは3か月連続で平均総取引残高1,000,000香港ドル(約1,992万円)未満だと月380香港ドル(約7,570円)(口座維持手数料ではなくPremierサービス手数料。開設・アップグレードから6か月は免除)一般的な記載のみ
ハンセン銀行(恒生銀行)支店での受付の記載あり。香港への入境記録が必要と明記個人の貯蓄口座は免除と記載(2026年7月1日施行の料金表)あり
中国銀行(香港)支店での受付の記載あり。事前予約サービスあり(必須との記載は確認できず)現行料金表では、残高が下限を下回った場合の月額料は法人のみ対象と記載申込書で選択項目を確認できる
スタンダードチャータード(渣打銀行)非居住者向けの記載は確認できなかった貯蓄(savings)・総合(integrated)口座は記載を確認できず。Priority Bankingのみ、日平均残高1,000,000香港ドル(約1,992万円)未満で四半期900香港ドル(約1.8万円)公表を確認できず(要問い合わせ)
東亜銀行(BEA)支店での受付の記載あり。パスポートでの開設を明記口座種別により異なる。i-Accountは手数料・最低残高とも記載を確認できず、Supremeは月50香港ドル(約996円)、SupremeGoldは月250香港ドル(約4,980円)(それぞれ100,000香港ドル(約199万円)/500,000香港ドル(約996万円)以上で免除)あり(2020年8月版の公表資料)

初めての1行を選ぶときの見方

現行の料金表を確認した範囲では、2026年に個人向けの口座維持手数料を新設したのはHSBCのみでした。また、非居住者向けの書類リストを公表しているのはハンセン銀行と東亜銀行の2行で、何を用意すればよいかを事前に確認できます。東亜銀行のi-Accountについては、公式料金表(2026年4月版)に最低残高の要件と口座維持手数料の記載がありません。少額を置いて様子を見たいのか、まとまった額を動かすのかで、選ぶべき口座種別は変わります。手数料の条件は口座種別ごとに違うため、申込時に口座種別を指定してご確認ください。

スタンダードチャータードは、オンライン開設の条件が香港IDの保有と香港または中国本土での居住に限定されており、非居住者が支店で開設する場合の手続きは公式サイトでは確認できませんでした。候補にする場合は、事前に直接ご確認ください。

申込みを受けた銀行に開設を義務づける規定は確認できませんでした。1行で断られても他行では開けることがあり、逆にどこでも開けない場合もあります。

2026年1月に変わったこと:HSBCの月100香港ドル

「香港の口座は維持費が無料」という説明は、長らく正しいものでした。HSBCは2019年8月1日に、個人口座の残高が下限を下回った場合の手数料を廃止しています(ハンセン銀行は現行料金表で個人の貯蓄口座について免除と明記し、中国銀行(香港)は法人のみを対象としています)。この流れが、2026年にHSBCで部分的に反転しました。

HSBC香港の口座維持手数料(2026年9月18日時点)
対象条件手数料
HSBC One(2026年1月1日以降に開設した、香港IDを持たない人)3か月連続で平均総取引残高(TRB)が10,000香港ドル(約19.9万円)未満月100香港ドル(約1,992円)
香港IDを持つ人—対象外
2026年1月1日より前に開設した、香港IDを持たない人—対象外
HSBC Premier(※)3か月連続で平均総取引残高が1,000,000香港ドル(約1,992万円)未満月380香港ドル(約7,570円)(口座の開設・アップグレードから6か月間は免除)

※Premierの月額料は、2019年に廃止された口座維持手数料とは別枠の「Premierサービス手数料」で、廃止の対象外です。

月100香港ドル(約1,992円)は年間で1,200香港ドル(約2.4万円)です。注意したいのは、この手数料の対象が「HSBC Oneで、香港IDを持たない人が2026年1月1日以降に開設した口座」に限定されている点です。日本から開きに行く人がHSBC Oneを選ぶと、この条件に当てはまります。

対策は、平均総取引残高を10,000香港ドル(約19.9万円)以上に保つことです。ここでいう総取引残高(TRB=Total Relationship Balance)は、普通預金だけでなく、同じ銀行で保有する預金・投資・保険などの残高を合算した金額を指し、さらに月末時点ではなく一定期間の平均で判定されます。少額だけ置いて放置する使い方を想定しているなら、口座維持手数料の設定がない銀行・口座種別を選ぶという考え方もあります。

日本から香港へ送金する際の為替コストについては、外国送金時の為替コスト(スプレッド)について【TTM・TTS・TTB】で整理しています。手数料だけを見て銀行を選ぶと、為替の差で逆転することがあります。

必要なもの:持っていく書類と当日の流れ

非居住者向けの書類リストを公表しているのは、調べた5行のうちハンセン銀行と東亜銀行です。これに中国銀行(香港)の口座開設申込書の記載事項を加えて整理すると、次のようになります。どの項目がどの銀行の公表資料に出てくるかも併記します。

非居住者が求められる書類・申告事項
項目内容この要件を公表している銀行
身分証明有効なパスポートハンセン銀行・東亜銀行。ハンセン銀行は香港への有効な入境記録も条件に挙げている
住所証明現住所が記載された政府発行の写真付き運転免許証または国民IDカード、もしくは銀行の取引明細ハンセン銀行・東亜銀行。東亜銀行は直近3か月以内の銀行明細と指定し、私書箱は不可と明記
資金の出所給与、退職金、事業収入・賞与、投資リターン、相続、不動産売却などハンセン銀行・中国銀行(香港)。中国銀行(香港)の申込書では選択式
職業・収入勤務先、職業、月収の区分ハンセン銀行・中国銀行(香港)
税務上の居住地とTINCRSの自己宣誓書。日本居住者の納税者番号はマイナンバー(個人番号)全行(香港の税務条例上の義務)。香港税務局は、重要な点について故意に虚偽の記載をした場合10,000香港ドル(約19.9万円)の罰金の対象になるとしている
口座開設の目的・想定取引量何に使うか、年間どの程度動かすかハンセン銀行・中国銀行(香港)

香港に着いたら:入境標籤(landing slip)を捨てない

香港は2013年3月19日から、訪問者の旅券に入境印を押さない取扱いに変わりました。代わりに、氏名(英字)・旅券番号・入境日・滞在条件と滞在期限が記載された紙の「入境標籤(landing slip)」が渡されます。香港入境事務處は「香港に滞在している間は入境標籤を保管すること」と案内しています。ハンセン銀行が求める「香港への有効な入境記録」は、これで示すことになります。銀行を回り終えるまで、必ず手元に残しておいてください(紛失しても出境には通常影響せず、再発行は無料と案内されています)。なお日本の旅券であれば、査証なしで90日の滞在が認められます。

日本で用意するもの:住所証明とマイナンバー

日本の運転免許証には現住所が記載されており、各行が挙げる「政府発行の写真付き運転免許証」に当たります。ただし記載はすべて日本語なので、英文の住所証明も別途1〜2点用意しておくと、窓口での確認が進みやすくなります。日本で現実的に入手できるのは、銀行に依頼して発行してもらう英文の残高証明書・取引明細と、クレジットカード会社の英文利用明細です。いずれも即日は出ないことが多く、発行に数日から1週間かかることがあるため、渡航の2週間前には手配を始めてください(英文の請求書を発行している電力・ガス会社はほとんどなく、住所証明としては当てにできません)。あわせて、CRSの自己宣誓書でマイナンバーを記入することになる点も、事前に知っておいてください。

香港の銀行は、香港の税務条例にもとづき、口座保有者から居住地国と納税者番号(TIN)を含む自己宣誓書を取得します。国税庁は日本の個人のTINを「個人番号(マイナンバー)」と公表しています。なお「マイナンバーは報告対象外」という記述を見かけますが、これは日本の金融機関が日本の非居住者の情報を国税庁へ報告するときの話で、香港側の取得義務とは別の制度です。

書類の認証が必要になる場合

東亜銀行は、書類を原本で提示するか、香港の弁護士・会計士・公証人などによる認証謄本を提出するよう求めています。日本で取得した書類を使う場面では、アポスティーユ(外務省の証明)または領事認証と、英文または中文への翻訳が必要になることがあります。当事務所ではアポスティーユ・翻訳・認証の取得代行と海外からの戸籍謄本の取り寄せに対応しています。

当日の流れと、断られる理由

訪問する支店の場所と営業時間は、各行の公式サイトの支店検索で事前に確認してください。閉店時刻と新規口座開設の受付終了時刻が異なることがあるため、あわせて支店にご確認ください。中国銀行(香港)は、香港の支店での口座開設について事前予約サービス(Easy Appointment)を提供しています。予約が必須であるという公式の記載は確認できませんでしたが、来店前に予約を取っておくほうが確実です。HSBCの事前予約はPremier Elite・Premierの顧客に限られ、それ以外は支店またはホットラインからの申込みになります。支店に来た非居住者個人の所要時間について、公式な目安は確認できませんでした。

窓口では、上の表の申告項目を英語で答えることになります。開設の目的は、あらかじめ英語で一文にまとめておくと、やり取りが滞りません。あわせて、連絡先の電話番号や香港での滞在先を聞かれることがあるため、ホテルの予約確認書も持参してください。

口座が開けたら、その日のうちにオンラインバンキングの設定とセキュリティデバイスの受け取りまで済ませてください。休眠からの再開は、多くの行でオンラインバンキングが使えるかどうかで手間が大きく変わります。受け取り方法(その場で交付か郵送か)は行によって異なるため、窓口で確認してください。

断られる理由を公表している銀行は確認できませんでした。香港特別行政区政府の2025年6月18日の立法会答弁によれば、銀行は申込者に対し顧客確認(CDD)を行う義務があり、個々の事情とリスク評価に応じて追加の情報・書類を求めることができるとされています。同答弁では、香港金融管理局(HKMA)が正当な事業者・団体に不合理な障壁を作らないよう銀行に注意喚起していることにも触れられていますが、これは主に法人顧客に向けたもので、非居住者個人を対象とした同等の指針は確認できませんでした。

2026年6月にはサウスチャイナ・モーニング・ポストが、香港の銀行が中国本土の顧客に対して審査を厳格化したと報じています(HKMAは口座開設の手続きは円滑に進んでいるとコメント)。いずれにせよ、「必ず開ける」という前提で渡航日程を組まないことをおすすめします。

開設後の維持:休眠までの期間と再開方法

見落とされやすいのが、開設後に口座を動かさないとどうなるかです。香港の銀行は、一定期間取引がない口座を休眠(dormant/inactive)として扱い、取引を制限します。

まず用語の整理です。休眠は、取引のない状態が続いたときに入出金などの操作を一時的に止める銀行側の取扱いで、残高が消えるわけではありません。マネーロンダリング対策などの理由で銀行が個別に口座を止める「凍結」とは別のものです。休眠中の残高の扱いや手数料が引かれ続けるかどうかは、各行にご確認ください。

休眠になるまでの期間と再開方法(2026年9月18日時点)
銀行休眠になるまで再開の方法
HSBC当座・貯蓄・総合口座など24か月/定期預金12か月/投資口座36か月(※旧FAQの記載。現行の案内ページに月数の記載は見当たらない)オンラインバンキングまたはモバイルアプリ(セキュリティデバイス/モバイルセキュリティキーでログイン)、電話、香港の支店のいずれか。投資口座の再開は電話バンキングPINでの本人確認または香港の支店での書類提出が必要
ハンセン銀行大半の口座は24か月(一部の通貨口座は8か月)オンラインバンキングで手続き可能(登録済みの携帯番号とセキュリティデバイスが必要)。処理は1〜2営業日
スタンダードチャータード当座・総合口座は12か月/貯蓄は24か月他に動いている口座があれば取引するだけで再開。すべて休眠ならホットラインか支店
東亜銀行12か月以上取引がない場合支店で本人確認書類を提示。香港外の顧客は電話で遠隔の本人確認(remote attestation)を手配できると案内している
中国銀行(香港)現行の公表資料では確認できず—

注意すべき点が2つあります。ひとつは、ハンセン銀行が「利息の入金や手数料の引き落としは取引に数えない」と明記していることです。放置していれば、利息が付いていても休眠になります。他行が同じ取扱いかどうかは公表資料からは確認できませんでした。数えないものとして扱うのが安全です。

もうひとつは、再開の手段が銀行ごとに違うことです。HSBCはオンラインバンキングやモバイルアプリからの再開を案内していますが、そのためには開設時にオンラインバンキングを設定し、セキュリティデバイスを保持しておく必要があります。ハンセン銀行も同様に、登録済みの携帯番号とセキュリティデバイスがそろっていればオンラインバンキングで手続きできます。東亜銀行は、香港外の顧客について電話での遠隔の本人確認を案内しています。だからこそ、開設当日にオンラインバンキングまで設定しておくと、休眠からの復帰が格段に楽になります。

※中国銀行(香港)の現行の休眠口座ルールは、2026年9月時点の公式料金表からは確認できませんでした。古い料金表の数字を引用している解説もありますが、現行の取扱いを確認できないため本記事では掲載しません。

残高は毎年、日本の国税庁に届く

「香港に口座を作れば日本の税務署にはわからない」という説明は、2018年以降、成り立ちません。香港特別行政区政府は2016年10月26日に、日本・英国との金融口座情報の自動交換(AEOI)を2018年に開始すると発表しており、香港税務局は日本を報告対象法域として掲載しています。

香港の金融機関は、口座保有者の氏名・住所・居住地国・納税者番号(日本居住者ならマイナンバー)・生年月日とあわせて、その年の12月31日時点の口座残高と利子・配当等の年間受取総額を香港税務局へ報告し、それが日本の国税庁へ渡ります。閾値はありません。

規模も公表されています。令和6事務年度に日本が受領したCRS情報は2,745,374件、口座残高にして約17.7兆円、101か国・地域からです。国税庁は「令和6事務年度 租税条約等に基づく情報交換事績の概要」で、CRS情報により会社員が国外の証券口座で得ていた株式の配当等の収入が申告漏れとなっていた事例を公表しています。

本人に発生する報告義務は「金額の閾値」で決まる

一方で、海外に口座を持つこと自体は適法であり、開設を届け出る制度は日本にありません。なお、ここからの「居住者」は日本の所得税法上の居住者を指し、前節までの「非居住者(香港に住んでいない人)」とは別の概念です。調書などの提出義務は、次の金額の基準を超えたときに生じます。下表のうち本人に提出義務が生じるのは、国外財産調書・財産債務調書・外為法の報告書で、国外財産調書は非永住者を除く居住者が対象です。海外へ住所を移した年以降は該当しないことがあります。

香港口座に関係する日本の報告制度
制度基準誰が出すか期限
CRS(自動的情報交換)閾値なし香港の金融機関年1回
国外財産調書12月31日時点で国外財産の合計が5,000万円超本人(非永住者を除く居住者)翌年6月30日(令和5年分から。それ以前は3月15日)
財産債務調書所得2,000万円超かつ財産3億円以上など。または財産10億円以上本人翌年6月30日
国外送金等調書100万円を超える送金・受金金融機関翌月末日
外為法・支払等の報告書1回3,000万円相当額を超える支払・受領本人銀行等を経由する場合はその銀行等へ、経由しない場合は日本銀行へ提出。銀行等経由の書面報告は支払等をした日から10日以内(提出方法により期限が異なるため日本銀行の案内で確認)

国税庁は国外財産調書制度のFAQで、預貯金の所在は「その預金の受入れをした営業所の所在」により判定するとしています。この考え方によれば、香港の銀行で開設した口座は国外財産に当たり、日本国内の銀行の支店で開設した外貨預金は国外財産に当たらないことになります。ご自身の資産がどれに当たるかの判断は、税理士にご確認ください。

なお、ここまでは調書(報告書)の提出義務の話です。口座から生じる利子や為替差益などの所得は、これらの金額の基準とは別に、所得税の申告対象になる場合があります。国外財産が5,000万円を超えない方でも、こちらは関係し得ます。申告が必要な場合の確定申告期間は原則として翌年2月16日から3月15日までで、国外財産調書の6月30日とは期限が違う点にご注意ください。具体的な取扱いは税理士にご確認ください。

国外財産調書を正当な理由なく出さなかった場合や、偽りの記載をした場合は、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象になります。加えて、調書に記載があれば申告漏れの際の過少申告加算税等が5%軽減され、不提出・記載不備なら5%加重されます。資料の提示を求められてから60日以内に出さない場合は10%加重です。

海外移住そのものに伴う税金の論点は、海外移住の税金と住民票の手続きで整理しています。なお国税庁のタックスアンサーNo.1478によれば、国外転出時課税(出国税)の対象資産は有価証券・匿名組合契約の出資の持分・未決済の信用取引およびデリバティブ取引とされており、銀行預金は列挙されていません。

相続で起きること

相続では、日本の手続きだけでは香港の口座は動きません。

香港に遺産税(estate duty)はありません。2006年2月11日以後に亡くなった方については廃止されています。ただしこれは香港の税金の話であり、日本の相続税は財産がどこにあるかに関係なく課税されます。相続時に日本国内に住所がある相続人は、取得したすべての財産が課税対象です。「香港に相続税がないから相続税がかからない」という説明は、①香港で廃止されたのは遺産税であって日本の相続税ではないこと、②日本の相続税は財産の所在地に関係なく課税されること、の2点で誤りです。

実務上より厄介なのは、香港の口座を動かすには、原則として香港高等法院の遺産承辦書(Grant of Representation)が必要という点です。日本の遺産分割協議書のみで払戻しに応じる取扱いは確認できませんでした。遺産承辦書の取得を経ずに済む簡易な手続きは、確認できた範囲で次の2つです。

香港の遺産手続きの簡易ルート
制度上限対象
遺産管理官による略式管理(高等法院)150,000香港ドル(約299万円)以下現金、被相続人の単独名義の銀行預金、強制積立年金(MPF)のみで構成される遺産
小額遺産の確認通知書(民政事務總署)50,000香港ドル(約99.6万円)以下遺産が金銭のみの場合。有価証券・不動産・貸金庫の内容物などがあると対象外

この2つは金額だけでなく対象となる財産の種類でも分かれます。金銭のみなら50,000香港ドル(約99.6万円)以下で民政事務總署の確認通知書、現金・被相続人の単独名義の預金・MPFのみなら150,000香港ドル(約299万円)以下で高等法院の遺産管理官による略式管理、いずれにも当てはまらなければ高等法院の正式な手続きです。日本の相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内ですので、香港側の手続きが間に合わないと、遺産の全体像が確定しないまま申告することになりかねません。

手続きには、日本で取得した戸籍謄本・除籍謄本・死亡診断書などをアポスティーユで認証し、英文または中文に翻訳して提出することになります。この部分は当事務所が扱っている領域です(アポスティーユ・翻訳・認証の取得代行、海外からの戸籍謄本の取り寄せ)。

家族が口座の存在を知らなければ、手続きは始まらない

ここまでの手続きは、遺族が口座の存在を知っていることが前提です。海外の口座は日本の相続で見落とされやすく、明細が電子交付のみだと、家族が郵便物から気づく機会もありません。CRSで国税庁には残高が届いている一方、遺族だけが知らない——という事態が起こり得ます。銀行名・支店・口座番号・口座種別・オンラインバンキングのID・セキュリティデバイスの保管場所を1枚にまとめ、ご家族またはエンディングノートに残しておいてください。あわせて、使わなくなったときの解約方法も開設時に確認しておくことをおすすめします(東亜銀行・スタンダードチャータード・中国銀行(香港)は、開設から3か月以内に解約する場合の手数料を公表しています)。

国税庁の公表によれば、令和6事務年度の相続税の実地調査のうち海外資産関連事案は1,359件(前事務年度比143.5%)で、海外資産に係る申告漏れ課税価格は514億円(同126.1%)でした。このうち重加算税の賦課対象は97億円(同155.5%)です。海外資産は調査対象として増えています。

よくある質問

日本にいながら香港の銀行口座は開けますか?

2026年9月時点では、日本在住者が使える正規のリモート開設ルートは確認できません。HSBC香港のアプリ開設は対象パスポートが15の国・地域に限られ、日本は含まれていません。日本国内のHSBCは個人向けリテール業務を行っておらず、海外口座の窓口にもなりません。香港の支店へ本人が行くことが前提になります。

香港に口座を持っていると、日本の税務署に知られますか?

知られます。香港は日本を報告対象法域としており、2018年からCRSによる自動的情報交換が行われています。毎年12月31日時点の口座残高と利子・配当等の年間受取総額が、氏名・居住地国・マイナンバーとともに日本の国税庁へ届きます。閾値はありません。

口座を開くのに最低いくら必要ですか?

最低初回入金額を公式に公開している銀行は、調べた5行の中にはありませんでした。これは公表されていないという意味で、窓口で初回の入金を求められることはあります。一方、開設後の維持条件は公表されています。HSBC Oneの場合、香港IDを持たない人が2026年1月1日以降に開設した口座で、3か月連続で平均総取引残高が10,000香港ドル(約19.9万円)を下回ると月100香港ドル(約1,992円)がかかります。東亜銀行のi-Accountのように、公式料金表に最低残高の記載がない口座種別もあります。

ビザなしの短期渡航でも開設できますか?

短期の観光目的の滞在を排除する記載は、各行の公表資料からは確認できませんでした。日本の旅券なら査証なしで90日の滞在が認められ、ハンセン銀行が求める「香港への有効な入境記録」も入境標籤(landing slip)で示せます。ただし入境していれば開設できるという意味ではなく、資金の出所や口座の利用目的を含む審査は別にあります。

口座を放置するとどうなりますか?

HSBCとハンセン銀行は多くの口座で24か月、スタンダードチャータードの当座(current)・総合(integrated)口座は12か月、東亜銀行は12か月以上で休眠になります。ハンセン銀行は、利息の入金や手数料の引き落としを取引として扱わないと明記しています。再開の方法は行ごとに違い、HSBCはオンラインバンキング・モバイルアプリ・電話・香港の支店のいずれかと案内しています(投資口座だけは電話バンキングPINでの本人確認か香港の支店での書類提出が必要です)。オンラインで済ませるにはセキュリティデバイスが必要なので、開設時にオンラインバンキングまで設定しておくことをおすすめします。

香港には相続税がないと聞きましたが、本当ですか?

香港の遺産税は2006年2月11日以後の死亡について廃止されており、その点は事実です。ただし日本の相続税は財産の所在地に関係なく課税されるため、香港の預金も日本の相続税の対象です。さらに、口座を動かすには原則として香港高等法院の遺産承辦書が必要になります。

口座開設の代行業者に頼むのはどうですか?

当事務所は銀行の紹介も開設代行も行っていないため、特定の業者について評価する立場にありません。判断材料としては、①銀行の公式サイトに書かれていない「確実に開設できる」という説明には根拠がないこと、②CRSの自己宣誓書に虚偽の記載をすると香港で罰金の対象になること、の2点を踏まえてご検討ください。

まとめ

日本人が香港で銀行口座を開く場合、2026年9月時点では香港の支店へ本人が行くことが前提です。銀行を選ぶ際は、知名度だけでなく口座維持手数料の条件と休眠からの再開方法もあわせて確認してください。HSBCは、HSBC Oneを2026年1月1日以降に開設した香港IDなしの人について、3か月連続で平均総取引残高が10,000香港ドル(約19.9万円)を下回ると月100香港ドル(約1,992円)を課し、休眠からの再開は、オンラインバンキング・モバイルアプリ・電話・香港の支店のいずれかと案内しています。

そして、口座を持つこと自体は適法である一方、残高は毎年CRSで日本の国税庁に届きます。日本の居住者(非永住者を除く)で国外財産が5,000万円を超えれば翌年6月30日までに国外財産調書の提出義務が生じ、亡くなったあとは原則として香港での手続きが必要になります。日本の居住者である間は調書の提出義務が生じ、居住地にかかわらず、相続時には香港側の手続きが必要になるという点を踏まえてご検討ください。

実際に支店を回ったときの記録はHSBC香港の口座開設をしてきました【体験談】に、資産防衛の文脈は預金封鎖 対策を考えてみるにまとめています。

当事務所は銀行口座の開設代行および銀行の紹介は行っておりません。海外移住・永住権・市民権のご相談の中で、口座をどう位置づけるか(移住の前に作るか後にするか、相続でどうなるか)を整理するお手伝いと、香港の銀行や裁判所へ提出する日本の書類(戸籍謄本・住民票・残高証明など)のアポスティーユ取得・翻訳・取り寄せに対応しています。

参考(一次情報・出典)

本記事の制度・手数料は2026年9月18日時点。円換算は三菱UFJリサーチ&コンサルティングの2026年9月18日の仲値(1香港ドル=19.92円)によります。

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